アナログ・エンジニアの 巨匠が逝く

昨日の2/14にCQ出版社から連絡がありました.日本を代表するアナログ・エンジニアの稲葉保さんが去る2/4に逝かれたと.近親者のみでというご家族のご意向で告別式は既に終わられているとの事でした.

私のいわば師匠ともいうべき人で,若い時に稲葉さんの書かれた本を食い入るように読んで勉強していました.その後私自身も雑誌トランジスタ技術で執筆するようになってからは,実際にお会いする機会が得られ,それ以降は気に入られたのか,良くお電話を頂き技術談義に華を咲かせていました.

稲葉さんの記事は,何と言っても実用的な回路と豊富な実験データがある事です.練に練られた回路なので再現性が高く,本の回路をそのままをデッドコピーしても,簡単に高性能な結果が得られました.

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中でもこのCQ出版社の「精選アナログ実用回路集」は超ベストセラー本と言って良く,この本を持っていないアナログ・エンジニアはいないというくらいの有名本です.私自身も何度この本からヒントをもらったことか.とにかく困ったらこの本で調べる.そんな本でした.

それから日本放送出版協会の「発振回路完全マスター」は,1995年当時に探しに探して入手した本です.当時すでに絶版でしたので.

この本には超低ひずみ率発振器の回路の解説があります.その1kHzのひずみ率は0.00001%(-140dB)という驚異的な内容です.その後に同様の発振器の本をCQ出版社からも出されていますが,この超低ひずみ率の記事はこの本のみです.

稲葉さんとお会いした時にそのエピソードを話すと「そこまでしなくても」と笑っておられたのを覚えています.

とにかくノウハウを包み隠さず公開される凄い方でした.前に前にと進んでおられる方だったので,終わったことは公開しても惜しとは思われなかったのかもしれませんね.

改めて稲葉保さんのご冥福をお祈りいたします.

浜田 智