設計するということ1

中学生や高校生のころは鉄道模型の製作に没頭していました.言わゆるHOゲージにNゲージです.でもいつも何処かに失敗があり,苦労の割になかなか納得の行くようなものは出来ませんでした.ですから常々どうしたら失敗のないモデルが出来るのかを思案していました.

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鉄道模型雑誌には,それはそれは車内まで精密に作り上げた見事な作品が載っています.私も挑戦し車内まで作ろうと試みましたが全くダメでした.何がダメかというと車内には固定金具とか,モータとか,ランプハウスとか,とにかく色々な出っ張りがあり工作を進めるといつも何かにぶつかってしまうのです.

また作った部品の寸法が足りないなども良くあることで,それを無理やり付けるといびつな姿になります.そしてモーターの配線端子を真鍮製の車体にショートさせることも多々ありました.問題点にぶつかるとせっかく組み上げたモデルを数工程戻ってバラして修正する...これを何度も繰り返すうちにモデルはボロボロになっていました.

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雑誌に載っている作品を見ると,まるでそんな問題点を初めから知っていたかのように個々のパーツが見事な形をしているのです.つまりぶつかって削った部品や寸法が不足して途中で継いだ部品などは皆無なのです.直角や水平や均等が奇麗に出ておりとにかく全てが最適解なのです.これがこれが不思議で不思議でなりませんでした.

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高校は工業だったので製図の実習がありました.でも授業としての製図は単なるトレースとして教えており,つまり教科書にある図面を綺麗にコピーするだけだったのです.

社会人となって会社で制御盤の設計部門に配属され本格的に図面を描くようになりました.そんなある日,鈑金図を描く作業を通してはたと製図の本当の意味に気づきました.いや自分にとっては大発見に近かった衝撃です.何を発見したのかというと,つまり製図とは奇麗な絵を描くのが目的ではなく「シミュレーション」する行為だったという事です.

図面は実物の正確な縮尺寸法で3方向の図を描きます.いわゆる三角法です.この紙の中に絵を描く行為を通して実は部品同士の干渉や寸法の具合など,実物で起こる様々な問題点を焙り出していたのです.あらかじめ問題点を紙の中で解決しておけば,実際に製作をする時はまるでプラモデルを組む様にすいすいと組み立てる事が出来きます.もうぶつかったり削ったりはありません.

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この製図の本当の意味を知って鉄道模型を車内まで失敗なく作り込む人の謎が解けたのでした.彼らはあらかじめ紙の中でこれから起こる事の全てを把握していたのです.検討が見事なので全ての部品が初めから無駄の無い形をしているのです.

それまでの私の工作はいわゆる「現物合わせ法」でした.これは設計と工作を同時に行う方法です.常に考えながら作業を進めるためにどうしても失敗が多くまた疲労の原因でした.

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