設計するということ2

私がまだ新入社員と言える頃なのですが,事務所が引っ越しとなり2~3年上の先輩がその責任者になりました.私はその先輩のある作業を見て「目から鱗」の大衝撃を受けました.そしてここでも改めて図面のもつ威力を認識しました.

その図面とは新しい事務所の平面図なのですが,単なる漫画ではなく方眼紙に間取りや机や椅子や書棚などを正確な寸法縮尺で配置し検討していたからです.引っ越しの当日は新しい事務所の床に寸法通りの印があって,その印に合わせて決められた机や家具を並べると,あっという間に引っ越しが終わりました.これにはとても驚きました.普通なら「この机はあそこの方が良い」「ここに置くと狭くなる」「もう少し右にずらせて」と,ごたごたが始まるのですがそれが全くなかったのです.

この様な図面というものがどう発展してきたのか,その歴史を調べる中で次のエピソードに出会いました.明治の初めに英国人エンジニアが持ち込んだ旋盤が壊れました.当時の交通は船であり修理部品が到着するのに数か月は要します.

そこで英国人エンジニアは日本の鍛冶屋に修理を依頼しました.数日後に修理の終わった旋盤を見てその出来の良さに驚いたそうです.そこで図面を見せてほしいと鍛冶屋に訪ねると「図面とは何?」と返ってきました.

そうなのです.日本の職人には図面という概念はなく,長年の修行と匠の技によって直接の工作で物作りをしていたのです.当時として複雑な構造を持つ鉄砲も,いわゆる現物合わせ法で作られていました.

でも明治からは西洋の製図・図面という手法が取り入れられ,今まで職人の神の領域とされていた物づくりが,図面を通して誰でも平易に理解出来て,誰でも同じ物が製作できるようになったのです.

TVのDIY番組があります.ある放送では庭先のウッドデッキを作を作ります.そして複雑な構造をもつウッドデッキを講師はすいすいと工作を進めるのです.設計図はスケッチ程度の絵のみです.

私はこれを見て間違いなく素人がやると失敗するなと思いました.たとえば寸法が足りないとか部品同士が当たるとか次々と失敗が発生するのです.

DIY講師は長年の経験で先の先までの展開が読めるのでしょう.でも素人は読める長さと深さが違います.だからこそ工作の前に紙の中で徹底検討しておくことが大事なのです.ウッドデッキの詳細な構造や寸法さらに木ネジの位置やサイズまでも.そして出来れば人の動きも時系列の工程表として書き出しておくと快適に工作を進める事が出来るでしょう.

図面はなにもわざわざCADで書く必要あありません.フリーハンドの絵でよいのです.とにかく紙の中に全てを出し切ることがコツなのです.